トランスミッションのオーバーホール / Transmission rebuilding
エンジンを降ろした2014年6月以来、ずっと放置状態だったトランスミッション。もの凄いオイル汚れもそのまま。エンジンのサーモスタットカバー・油圧スイッチの辺りから漏れ出たエンジンオイルが多量に流れ落ちてきたほか、左右のドライブシャフトフランジ根本のオイルシールもダメになっているようで、ミッションオイルも飛び散っていた模様。
オイルと泥が分厚く堆積。分解する前にこの汚れを地道に落とすことにした。
汚れ落としと並行して、分解組み立て時に必要になる工具を自作。それは・・・。
これ。メインシャフトの回り止めツール。専用品もあるようだが、捨てる予定だったクラッチディスクの中心部を取り出し、端材をカットし溶接して手早く製作した。
クラッチリリースベアリングのガイドチューブを抜き取り、リリースレバー・シャフト周りを分解していく。ひどいオイル汚れ。摺動も渋い。ミッションハウジングに組み込まれシャフトをガイドするためのスリーブは、シャフトとのガタもなく、まだ使えそう。
リリースレバー、ポジショニングレバーにシャフト。異常は無さそうだがとにかく汚い。
フロントカバーを外すと5thギアとリバースギア周りが姿を現す。一目見た限りでは状態は良好そう。
ナットのかしめを解き、5thギアとリバースギアを引き抜くと・・・
現れた1st~4thギア、シフトフォーク周りを早速観察。ここも幸い異常はなさそう。
1stと2ndのシフトロッドを残して、2本のシャフトとギアのかたまりをごっそり引き抜く。
メインシャフトのナット。かしめ形状の綺麗さ、そして、ものすごいトルクで締まっているはずなのにあっけないほど軽い力で緩んだことから、このトランスミッションは新車時から一度もオーバーホールを受けていないように感じるのだが・・
このヘリサートかリコイルの施工跡は一体何を意味するのだろうか。謎である。
ピニオンギアの前後方向を位置決めするシム。0.15mmと0.2mmが一枚ずつ出てきた。組み付いていた状態からは想像しにくい位置に圧痕のような模様が。一度開けられ再組立てされた形跡か?
ギアハウジングのベアリングアウターレース。加熱せず、汎用のベアリングドリフトとハンマーで打ち抜くことができた。
ピニオンシャフトのベアリングを抜き取る。ピニオンギアの状態は極めて良好。
ギアがバラバラになったところで、シンクロナイザーの構成部品の状態チェックと交換を。まずは2ndギアから。
シンクロリングの状態。左の新品に比べて、右の取り外し品が激しく摩耗していることが分かる。
ブレーキバンドとコマ。左が取り外し品、右が新品。摩耗度はごく僅かだがこの際に新品に交換しておく。改良のためか他車種との共通化のためか、形状がやや異なっている。
1stギアのシンクロリング。左が取り外し品、右が新品。取り外し品に顕著な摩耗が出ているのは2ndと同じ。なお新品ではなぜか内側の溝の本数が少なく、浅い。
5th。シンクロリングは再使用できそうなほど摩耗は僅か。ブレーキバンドには若干の摩耗あり。いずれも新品に交換する。
左が取り外し品、右が新品。新品の引っ掛かり部分になぜか段差が付いている。
以下は3rdと4thを分解しての状態チェックの様子。いずれもシンクロリング、ブレーキバンド、コマは5thと共通。
デフ周りも分解していく。ドライブシャフトフランジは、サイドカバー側だけがなぜかラジアル方向でガタが大きく、そのせいかオイルシールの摩耗も激しかったようで盛大にオイル漏れしていた。異常なくらいのこのガタは一体なぜ?
サイドカバーのナット12個を外すとデフが姿を出す。サイドベアリングは見る限り再使用できそうなほど良好そう。ギアの欠けや異常摩耗も無さそう。
新品のデフサイドベアリングのアウターレースを打ち込む。ワークショップマニュアルにはハウジングとサイドカバーを120度に加熱せよとあるが、常温で汎用のドリフトを使って軽い力で叩いて入れることができた。
続いてデフのプリロード調整。写真を撮り忘れたが、デフのサイドベアリングを引き抜いたところ、サイドカバー側には3.0mmのスペーサーと0.25mmのシムが、ハウジング側には2.9mmのスペーサーがそれぞれ入っていた。これらを元と同じように組み付け、新品のベアリングを、アウターレースとの組み合わせを取り違えないよう注意しながらデフキャリアに圧入。ハウジング側にシムが入っていないことを、この時は特に疑問に思わなかったのだが・・・
デフをハウジングに仮組みしてみると、サイドカバーを規定トルクで締め付けた状態なのに、プリロードが掛かるどころか、カバー側のフランジはラジアル方向にガタガタ。
ハウジング側にも本来は0.25mmのシムが入っているはずではないかと、ここで気付いた。過去に何らかの理由でデフ周りがバラされ、再組立て時に入れ忘れられたのではないかと。
そこで、ハウジング側は元の2.9mmスペーサーに産業用の0.2mmシム(写真)を組み合わせてみる。
フランジの首下に針金で作ったリングを入れ、センターのボルトを締め込み、ボルトをゆっくり回転させてトルクレンチの値を読み取る。手持ちのトルクレンチではレンジが大きすぎて大ざっぱながらも、結果は許容範囲内の下限値付近だったので、結局サイドカバー側のシムのみオリジナルの0.25mmに戻し、プリロード調整は完了。
先に組んでおいた各ギアやシンクロハブ、スリーブなどを組み付けていく。組み付け方向の間違いや組み忘れに細心の注意を払いながら。ベアリング類はメインシャフト・ピニオンシャフト共に全て新品にした。
セレクターロッド、シフトフォークなどは、位置や角度を調整しながら組んでいく必要がある。
エンドカバーを組み付ける前にデフのバックラッシュ測定。ピニオンシャフトの回転を完全に止めておくため、木材とCクランプを活用。ダイヤルゲージをセットし、フランジにトルクを掛け、センターから半径76.5mmのところのガタを見てみる。
規定値は0.15mmに許容範囲がプラスマイナス0.03mm。ほぼ上限だが範囲内。デフを90度回転させてもう一箇所でも測定し、ほぼ同じ値であることを確認して、バックラッシュ測定は完了。
リターンスプリングとそのシャフト周りのベアリングは新品に。トランスミッション側のマウントも新品。
いよいよエンジンとの合体。
クラッチディスクとカバー、ベアリングも新品を組み込む。リングギアは元のカバーから取り外して移植。クラッチにはホンダ用と刻印のあるプラスチック製のセンター出しツールが付属してきたが、ちゃんと使えた。
メインシャフトのスプラインにクラッチグリスを塗り込み、いざトランスミッションを吊り上げ、クラッチフォークをベアリングの溝にはめ込みながらエンジンと合体。