エンジンの組み立て (1) / Engine rebuilding (1)

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ひたすら進めてきた汚れ落としや各部の修正作業も終わり、エンジンのオーバーホールはやっと折り返し地点へ。

INバルブはステムの曲がりや異常摩耗はなく、シートとの当たり面も良好なため、そのまま再使用。

DSCF6139DSCF6167一方EXバルブは、全シリンダーでガイドとのクリアランスが過大で、1番シリンダーに至ってはステムに曲がりが発生していたため、全て新品に交換。TRW製のOEM品。

DSCF6166バルブガイドはIN、EXとも12本全て交換。バルブステムシールの食い付きが良さそうな、口元にギザギザの付いたタイプを選んだ。これをバルブ・シリンダーヘッドと一緒に専門業者に送り、バルブステムとの内径合わせ、シリンダーヘッドとの外径合わせをしたうえで、打ち替えてもらう。

DSCF6208DSCF6209そして、機械加工が完了して組み上がったシリンダーヘッドAssyが戻ってきた。ステムとガイドのガダは、添付された加工後の測定データが示すように規定範囲内であることが手応えで分かるほどの小ささ。各バルブの動きも極めてスムーズで気持ち良い。

DSCF6210DSCF6216カットし直されたシートに、吸い付くように収まるバルブ。

DSCF6211 DSCF6213バルブの当たり面。左が新品のEX、右が再使用のIN。

DSCF6200専門業者で抜き取られた元のバルブガイド12本も戻ってきた。焼け焦げの酷い上段の6本がEX側。

DSCF6214 DSCF6215一部が折損していたバルブスプリングもこれを機に全て新品に交換。バルブコッター(キーパー)はバルブを新調したEX側のみ新品に交換。

DSCF6198 DSCF6199コンロッドの小端部のブッシュも専門業者に打ち替えてもらった。ピストンピンとの内径合わせでここの隙間感も正常に戻った。小端部トップのオイル穴も加工されてきたのだが、内径側の面取りは設備上できないとのことでそのまま。そこで自分で面取り加工。ルーペ片手にリューターをブッシュ内部に差し入れては少しずつ削る作業。綺麗な仕上がりとは言えないが、これでバリが発生する心配はなく機能的には十分のはず。

DSCF6207フライホイールを台座にしてクランクシャフトを立て、新品のロッドボルト・ナットでコンロッドを組み付けていく。ベアリングも全て新品。このボルトは、高いトルクを掛けて伸びを生じさせ塑性域で締め付けるため、再使用はできない。そのため、コンロッドの取り違えや向きに間違いがないよう確認したうえで、それぞれのクランクピンとのクリアランス感も確かめながら作業。

DSCF6190 DSCF6201 DSCF6193しばらく放置状態にあったクランクケースを清掃する。Assy状態の外側に続いて、左右分割状態にして内部に溜まった埃などの洗浄とエアブロー、スルーボルト穴やオイルジェットなど、小さな穴を中心としたエアブローを念入りに行う。

DSCF6192スタッドボルトはIN・EXとも、IN用として設定された純正品を使う。インストーラーをセットし、Loctite 271をクランクケースのめねじ穴に滴下してねじ込んでいく。突き出し量は規定の135mm。

DSCF6194クランクケース右半分のスルーボルト穴周辺には面取りが施されている。左半分のそれにはない。スルーボルトの外径は頭部のすぐ下が最も大きく、穴とのクリアランスはその分小さくなり、Oリングもその分外径方向へと引き伸ばされる。したがって、少なくともこの年代の911SCでは、スルーボルトの挿入方向はクランクケースの右半分から左半分へが正しい、と理解できる。

DSCF6242オイルポンプ、インターミディエイトシャフト、タイミングチェーンをサブAssy状態で右クランクケースに組み込むのだが、その前に組み込むのを忘れそうになるのがこのOリング(写真中央)。

DSCF6243その設計上のサイズから何とも心許ないインターミディエイトシャフトベアリング。当然ながら新品を、長く持ってくれとの願いを込めて組み込む。

DSCF6246オイルポンプ、インターミディエイトシャフト、タイミングチェーンに続いて、新品のクランクベアリング、クランクシャフトAssyを右クランクケースに組み込んでいく。クランクシャフトAssyは、その重さもあり、また1~3番コンロッドに下を向かせるように、4~6番コンロッドの小端部にロープを通して持ち上げ、クランクケースへゆっくりと落とし込んだ。8番のノーズベアリングのOリングの噛み込みがないか、その他組み忘れや異常がないかもこまめに確認。回転部分やOリング周りにはエンジンオイルを補給。

DSCF6247 DSCF6248 DSCF6249空冷911のエンジンを組み上げる時のハイライトとも言える左右クランクケースのスルーボルト締め付けに備え、クランクケース合わせ面を脱脂洗浄。その作業と、続いての左クランクケース組み付けでは、コンロッドとタイミングチェーンを一時的に上向きに固定しておく特殊工具が必要。自作した。

ここからは一気に。右クランクケースの合わせ面にLoctite 518を塗布し、あらかじめ新品のクランクベアリングを組み込んだ左クランクケースを被せる。外周をプラスチックハンマーで叩いて落ち着かせ、部品の噛み込みなどの異常がないことを確認したら、すかさずスルーボルトの組み込みとナットの締め上げに移る。スルーボルトには予めOリングを通し、ベベルワッシャーとナットも数量を確認したうえで手元のトレーに揃えておき、手早く仮締めしたあと、トルクレンチで正しい順序で本締め。時間との勝負、手際が命、おまけにLoctite 518は純正指定の574よりも硬化時間が短いとあって、Oリングの入れ忘れがないか等にも気を配りながら、写真撮影も忘れて作業を進めた。

DSCF6250 DSCF6253 DSCF6254 DSCF6257スルーボルト本締め直後のクランクケース合わせ面。赤いLoctite 518がほぼ均一に押し出されている様子から、合わせ面は全体に渡って十分なシールがされていると判断。

DSCF6264 DSCF6263クランクシャフト前方(クラッチ側)のオイルシール組み付け工具。オイルシールと偶然同じ外径を持つ汚水配管用の部材と、手元にあった日産車のエンジン用のスタッドボルト。

DSCF6262 DSCF6261組み付けはあっけなく完了。

DSCF6268 DSCF6267フライホイールボルトも新品に。Loctite 271を塗布。パイロットベアリングも新品に交換。

DSCF6031DSCF6023 DSCF6032クランクケース側の組み立てが一通り終わったので、ここでピストンとシリンダーをサブAssy状態にしておく。ピストンリングコンプレッサーでリングを縮め、ピストンに切られたリセスの向きに注意しながらシリンダートップから挿入。ピストンピンのサークリップも片方だけ組み付けておく。

DSCF6269DSCF6270クランクケースへと順番に組み付けていく。クランクケースの開口部に詰め込んだレジ袋はピストンピンのサークリップを誤って中へ飛び込ませないための予防策。シリンダーのベースガスケットも入れ忘れがちなので注意。

DSCF6271 DSCF6272 DSCF6273全シリンダーの組み付けが完了。ピストンのリセスの向きを今一度確認。クランクシャフトを頻繁に回転させながらの作業なので、組んだシリンダーが浮いてこないよう、高ナットを加工して作った治具とヘッドナットで押さえておく。

DSCF6281 DSCF6282シリンダーヘッドを組み付ける前に、スタッドボルトのねじ部にカッパーベースのかじり防止剤を塗布。

DSCF6283 DSCF6284 DSCF6285シリンダーヘッドのカムシャフトハウジングとの合わせ面を脱脂洗浄していたら、過去にオーバーホールされた際に掘られたであろう文字を発見。実害はないだろうが、何もこんな大事な面に掘らなくてもいいのにと思う。

DSCF6286新品のオイルリターンチューブ。メッキが眩しい。

DSCF6288 DSCF6289シリンダーヘッドを載せ、オイルリターンチューブを組み付け、カムシャフトハウジングとの合わせ面にLocktite 518を塗布し、同じく合わせ面を予め脱脂洗浄しておいたカムシャフトハウジングをその上に、位置決めピンを基準にして載せる。プラスチックハンマーで落ち着かせ、まずはシリンダーヘッドとカムシャフトをM8ナット(一部はM8バレルナット)で締め付けたのち・・・

DSCF6280 DSCF6290カムシャフトと一体になった状態のシリンダーヘッド全体をM10バレルナットで順に締め付ける。シリンダーヘッドを締め付けたあとにカムシャフトハウジングを締め付けるという順序も存在するようだが、各部の構造からしてこの順序が正しいように思う。

DSCF6300 DSCF6302EX側マニホルドのスタッドを全長の長いカレラ用に打ち替え。その理由はコチラ

DSCF6291DSCF6303クランクプーリーボルトも念のため新品に。

DSCF6320 DSCF6321クーリングファンからのエアの流れを整えるバッフルプレートも組み付けが終わり、ほぼ形になってきたエンジン。

DSCF6322エアインジェクションノズルが装着されていた穴には銅ガスケットを介してボルト(写真右)をねじ込む。

DSCF6328DSCF6324続いてヘッド周り。ロッカーアームとシャフトを順番に組み付けていく。ナットは回転しないよう、頭部をカットした8mmの六角レンチで押さえつつ・・・

DSCF6323 DSCF6325 DSCF6326シャフトを通るボルトを、5mmの六角レンチソケットにエクステンションバーの長さを変えながら順次締め付けていく。

DSCF6323完成。摺動部にはエンジンオイルをたっぷりと補給しておく。

DSCF6334その機能を突然失うリスクがあると言われている機械式チェーンテンショナーのオーバーホールも、この機会に済ませておくことにした。最上部のキャップとロアピストン固定用それぞれのサークリップを外せば中身が全て出てくる。

DSCF6335最上部のサークリップ、スプリング、アッパーピストン。アッパーピストンには外周と内径部にOリングがはめ込まれている。

DSCF6336DSCF6337ロアピストンを分解したところ。テンションを生み出すスプリング、チェックバルブと・・・

DSCF6339 DSCF6340チェックバルブのシートとして機能しオイルの流路を形成するリング状の部品と、その外周に付く細いOリングも出てきた。

DSCF6341ブリーダープラグの銅ガスケットも要交換。しかしこれらのOリングや銅ガスケットは、エンジン本体のオーバーホール用に既に購入・開封しているガスケットキットに全て含まれていることに気付き、一安心。チェーンテンショナー単体の純正オーバーホールキットにはサークリップやチェックボールも含まれているようだが、現物の状態に問題はなさそうなので金属部品は点検のみで再使用。

DSCF6342DSCF6355最も大変なのはロアピストン挿入後のサークリップの組み付け。スプリングを縮めた状態を保ちながらの作業にひと苦労。その後、ダンパー室を形成しているロアピストン内部をエンジンオイルで満たし、オイルを補充しながらワイヤーでチェックバルブを押してエア抜き。アッパーピストンその他を元通り組み付け、さらにブリーダープラグでのエア抜きをすれば完成。ロッドが手で押し込めないほど固く、遊びがほぼ無い状態になれば、正常にエア抜きが出来ていると判断できる。

DSCF6349 DSCF6350まだ使えそうだったチェーンガイド計6本も、せっかくなので新品に。1本だけ色(材質)が違うので間違えないように注意する。

DSCF6351 DSCF6352

DSCF6353 DSCF6354チェーンガイド取付けボルトの角がアルミのシーリングリングを過度に傷付けるようなので、軽く面取りしておく。

DSCF6343 DSCF6344 DSCF6345右クランクケースに取り付くオイルクーラー。過去にサーモスタットハウジングや油圧スイッチ周りから漏れ続けていたオイルのせいで汚れが激しい。

DSCF6347 DSCF6348写真では差が分かりにくいが、洗浄し、フィンの潰れを修正してエンジンに組み付けた。

DSCF6305 DSCF6306 DSCF6308ここで、取り外して放置したままだったエンジン周辺の部品にも目を向ける。空冷ポルシェの命であるオイルの量を運転中に把握するために必要なレベルセンサー。これをタンクから取り外して状態を確認したところ、抵抗線が巻かれたベークライト板がズッコけていて、もはやセンサーとして機能を果たしていないことが判明。取付け部のガスケットは完全に硬化し、オイルが漏れるままの状態になっていた。タンク外側の激しい汚れはこれが原因だった。

DSCF6329 DSCF6330センサーは新品の社外品を入手。念のため特性を把握しておこうと、検知できる最大油量時の抵抗値を計ってみると約180Ω。

DSCF6331 DSCF6333同じく最低油量時の抵抗値は約4Ω。

DSCF6358 DSCF6524付属のゴム製新品ガスケットをタンクに組み付けてみたところ、なぜかゴム部が余りまくって波打つが、気にせず進める。社外品のセンサーのベースプレートは純正より肉厚だがリブ無しの平板。ナット締め付けによるたわみを抑えガスケットが均一に潰れるよう、大きめのワッシャーとフランジ付きのナットを使って応力が極力分散するようにした。なお、このセンサーを組み付ける際にはディップスティックを抜いておくことが必要。純正のセンサーなら特に注意する必要はないのかも知れないが、ナット締め付け後にオイルタンクを振り、中の浮きがスムーズに上下することを必ず確認する。浮きのアームがディップスティックやそのガイドチューブに干渉していることがあり、そうなるとセンサーとしての機能を果たさなくなる恐れがあるので注意が必要。

空冷ポルシェのオイルレベルは主としてディップスティックで確認・把握を、と言われているが、走行中のレベルゲージも極力正常に作動するよう、各部品の組み付け状態にも気を配りたいところ。

 

DSCF6356クランクケースからカムシャフトハウジングへとオイルを供給するラインが左右にある。左ラインの取付を終え右側に着手。・・・と、油圧センダーゲージを共締めする中空ボルトを締め込むや、規定トルクに達する前にいやな手応えが。あろうことかクランクケース側のめねじをねじ切ってしまった!以前から弱っていたのか?これには困った。クランクケースを組み上げる前ならともかく、この状態からのねじ山修復は切り子が中に侵入するリスクがある。そのうえボルトのねじサイズはM12のピッチ1.0。リコイルやヘリサートでめねじを修復するしかないのだが、M12のラインアップで最も細かいピッチは1.25。そうするとボルト側も加工する必要がある。

とあれこれ考えても取り得る手はこれしかなさそうなので、早速リコイルキットを入手して作業開始。

DSCF6421 DSCF6420 DSCF6418エンジンをスタンドごと吊り上げて自作エンジン台車の上に載せてかさ上げ。次にボール盤にエンジンを近づけるのだが、カムシャフトハウジングに干渉する電源スイッチを取り外す。幸い加工箇所の下方真横に別のセンサー穴があったのでポリ袋をねじ込み、切り子が侵入しないようにしておく。リコイル付属の専用ドリルとの垂直を確認して穴あけ。大がかりな前準備を経て穴あけはあっけないほどすぐ終了。このあとエンジンを180度回転させて穴を下に向け、ポリ袋とその上に溜まった切り子を 慎重に取り除いた。

DSCF6416再び穴を上に向けてリコイル専用のタップでねじ切り。

DSCF6422長すぎたので2巻きほどカットしたリコイル本体を付属のツールでねじ込み、作業は無事に完了。

DSCF6424さて次はこの中空ボルトの加工。

DSCF6429 DSCF6430溶接でこれまでのねじ山を溶接で一旦埋めたあと、ピッチ1.25のタップでねじ山を切り直す。溶接の巣が現れてしまったので見た目は今一つだが、ねじ込んでみるとトルクの立ち上がりは良好なので問題なしと判断。

DSCF6432これでエンジン自体の組み立ては完了。

–> エンジンの組み立て (2) に続く。

–> Continued to Engine rebuilding (2).

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