よし、エンジンを降ろそう。 / Engine dropping off
分かってはいたものの、ジャッキアップしてライトで照らしながら細部を見ていくと、エンジンオイルの漏れが思いのほか激しい。
まあゆくゆくはエンジンOHも視野に入れながら、ひとまず路上復帰させて乗りながら直していこう、と当初は思っていたが、実態を前に考えが変わった。
まずエンジンを降ろして実態を把握。どうするかはそれから考えようと。
いや、どうも怪しい、持病を抱えているのではないかとの直感が働いたからとも言える。
911のエンジンは下抜き。
そのためにはまず、車体後部を持ち上げ、エンジンを支えながら落とすための治具製作から。
手持ちの2tガレージジャッキの皿を外してそのまま装着できる、エンジンを下から支える治具を作った。車体後部を持ち上げて作業するので、エンジンとトランスミッションは降ろす直前は必然的に前傾姿勢、そこから作業中に水平に変化させる必要があると考え、治具の角度をボルト一本で調整できるようにした。
降ろしたエンジンは、この治具ごと写真左に映っている台車に載せる仕組み。後方に転がる部材はどうするかと言えば・・・
トランスミッションごと台車に載ったエンジンは、車体からジャッキごと引き出すことができるという仕組み。
治具はこれで一応完成。実際に使いながら必要に応じて手直ししていくことにしよう。
さて、ジャッキアップした車体の下へ入り、前準備を開始。
トランスミッションの右側面にあるスピードメーターセンサー。固定ボルトを緩め、センサーを取り出し、邪魔にならない場所に一時退避させておく。
トランスミッション前端付近、メンバーのすぐ前に見えるグラウンドストラップ。見逃しやすいこれも車体から切り離す。
なんとまあ、オイルクーラー一面にはオイルがびっしり付着し、ミリ単位の層になっている。すぐ前にあるドライブシャフトフランジのシールが劣化し、ミッションオイルが飛び散ってこうなったのだろう。
スターターモーターに繋がっているプラスケーブルを外す。外したプラスケーブルが車体に触れたら危険なので、事前にバッテリーのマイナス端子を外しておく。
それにしても、付着したオイル層の厚さはただ事ではない。一度エンジンを降ろそうと決めたことが正解だったとの手ごたえを感じ始めた。
ヒートエクスチェンジャーホース。これも劣化してボロボロ。下側のバンドを緩めて引き抜いておく。
右側ドライブシャフトフランジの周辺。すぐ上にはスターターモーター、すぐ後ろにはオイルクーラーがある。
シールが劣化し多量のミッションオイルが飛散したことが分かるが、シールの劣化は単なる経年劣化か、それとも回転部分のラジアル方向のガタが過大でシールの劣化が早まったのか。後者でないことを祈りつつ、作業を進める。
ドライブシャフトはトランスミッション側で切り離しておいた。
室内では、前後席の間にあるカバーを外し、シフトレバーとトランスミッションを切り離す。
ジョイントを取り外してみれば、中のブッシュが変形・摩耗している。
どうせ交換するからと、プライヤーやニッパーを駆使してブッシュを崩しながら除去し、ピンを抜いて分解しておいた。
エンジンルームのオイルブリーザーホースを抜くこともも忘れずに。先にオイルフィルターを外しておかないと根元にアクセスしづらい。
オイルタンクのドレンボルトを外し、エンジンオイルを抜く。この段階ではなぜか2~3Lしか出てこなかった。
ドレンボルトの溝には、オイルに混じって何やら乳白色の液体が。
エンジンとオイルクーラーをつなぐホースを切り離す。手前の金属パイプを変形させないように36mmのナットを緩めるのが一苦労だった。ホース全体もジョイント部も見事なまでにオイルまみれ。その原因は・・・
ここのようだ。ホースの他端が金属パイプとのかしめになっているのだが、何気なく回転させてみると、ホースとパイプがゆるゆるに回転する。ここは作り変える予定。
次にエンジン本体からもオイルを抜く。年式的にそうなのかこの個体がたまたまそうなのかわからないが、サンププレートはドレンボルト無しのタイプ。8本のM6ナットを順々に緩めて徐々にオイルを抜いていく。
抜いたエンジンオイルの総量は、目分量だが、結果的に8Lほどになった。元々入っていたオイル量はほぼ適正だったと推測される。
トランスミッションオイルも抜く。ドレンボルトのマグネット周囲には金属粉がびっしりだが、どこかが欠けたような破片らしき異物は見当たらず、やや安心した。
続いてリアバンパーを外す。
そこから手を突っ込んでリアランプAssyを外す。事前にレンズを取り外し、バンパー上面を養生しておくことを忘れずに。
すき間からこぼれてくる砂粒。リアバンパー上面は、リアランプ本体との摩擦だけでなく、こうした砂粒が介在することによる傷付きのリスクがある。
汎用のグロメットとバキュームホースで代替品(左)を製作しておいた。
いよいよエンジンを降ろす。車体後部を高く持ち上げるため、前部のリジッドラックを外しフロントタイヤを接地させる。リア側のリジッドラックは最高位にしたいところだが、それではフロントのゴム製スポイラーが接地してしまうことが分かり、上から2段目とした。この状態で車体後部の地上高を見てみると・・・
900mm。エンジンはフューエルディストリビューターやエアドームを予め取り外して高さを抑えてあるので、これでギリギリ通過できると判断。
フロントタイヤに輪留めを掛け、エンジンに治具を掛けて角度を調整し、フロントとリア各2箇所のエンジン固定ボルトを外す。
車体の下に潜ってトランスミッションのシフトロッドを車体外へ押し出しては細切れにジャッキダウンさせ、エンジンの角度を徐々に水平に近づけながら降下させていく。車体とエンジンのすき間が広がり、フロアが見えてきた!
エンジン全体が姿を現した。この時、エンジンをやや後傾気味にして、ファンハウジングが車体後部を通過しやすいようにした。
待機させていた(?)台車に載せて、エンジン降ろしはひとまず成功。次の作業日までエンジンAssyは車体の下に収めておくことが可能。キャスターはロックできるので、勝手に転がっていくことはないだろう。
CSV(コールドスタートバルブ)のコネクター。なぜかタイラップで抜け止めが施されているが、なぜそんな必要が?なおここのフューエルホースは、エンジンを降ろす作業に先立ち取り外しておいた。
スロットルボディを外してみると、バタフライの裏側は真っ黒。内壁もベトベト。
インテークマニホルドとエアクリーナーボックス。ラバー製のコネクションチューブは亀裂もなくまだ使えそうだが、一度組んでしまうと外すのが大変なので、これを機に交換する。
エアレギュレーター。外気温20℃台でのシャッター開口度合は写真の通り。通電しての作動確認をそのうちやる予定。
驚いたのがこれ。左クランクケースの上面に付くスロットルリンクAssyだが、何とブッシュが跡形もなく消滅していてシャフト周りがガタガタ!前オーナー様からこのクルマを譲り受けて自走してくる際、どうもアクセルへの反応が一呼吸遅れるなと思っていたが、これが原因だったのかも知れない。
そしてエンジン上部からのオイル漏れ箇所としては定番中の定番、オイルプレッシャースイッチとサーモスタットガスケット。プレッシャースイッチには既にシリコン系の液体ガスケットが塗りたくられ、オイル漏れを食い止めようとした形跡があるが、ここからの漏れが最もひどい。漏れたオイルは右横のオイルクーラーフィンへと流れ込んでいたようだ。
漏れたオイルは、オイルクーラーの前方面へも流れ込み、飛散してきたミッションオイルと混ざり合ってベットリと分厚い膜を形成。スターターモーターも堆積したオイル汚れがすごい。
ファンシュラウドとファンAssyの取り外し。オルタネーターはファンAssyの中に組み込まれる、ポルシェ独特の構造。それにしてもオルタネーター配線へのアクセスは良くない・・・ などと思いながら作業を進めていくと・・・。
顔を出したオルタネーターが想像していたものと違う。ボルテージレギュレーター内蔵タイプではないか。
よく見ると、使われるはずの配線が一本、使われていない。テープをめくってみると、本来の外付けボルテージレギュレータのDF端子に繋がる黒い線が出てきた。エンジンルーム内左側に付いているボルテージレギュレーターが既に使われていなかったということがこれで分かった。
ファンを外したところ。ValeoのA14N11、75Aだ。ポーランド製で、アフターマーケット向けのオルタネーターのようだ。それにしてもこの綺麗さ。つい昨日取り付けられたかのよう。何とも得したような気分。
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